またまた『銀河英雄伝説』の話。
本作では、ラインハルトとヤンが対照的なライバルとして描かれています。
対立軸の一つには「戦略のラインハルト」に対する「戦術のヤン」という側面があります。
戦略とは、総合的・長期的な計略です。
戦争全体の計画から、人員や物資、兵器の準備やなんかも含みます。
他方、戦術とは、個々の具体的な戦闘の場面で展開する方策です。
陣形をどうするとか、どうやって奇襲をかけるかとかですね。
ラインハルトは、戦略家として最強ではあるものの、本人が強い関心を持つ戦術の面ではヤンに一歩譲ります。
ヤンは、実は戦略面の才能も持っているのですが、根回しや政治に関わることを嫌う怠惰で消極的な性格から、戦術に専ら才能を発揮します。
弁護士業界においても、ラインハルトやヤンのような人がいます。
例えば、事務所経営をシステマティックにこなし、多大な収益をあげる弁護士がいます。
往々にして社交的でスター性のあるタイプです。
同業者から見ると、こういう人が必ずしもリーガルマインド(法適用の判断)に優れているとは限りません。
事務所経営という戦略面で優れているものの、個々の案件処理という戦術面では疑問符のつく人ですね。
他方、そんなに儲けていない、風采の上がらない感じの弁護士がいます。
だいたいコミュ障です。
誤解を恐れずに言えば、刑事弁護の大家やなんかによくいるタイプです。
そんな弁護士の成果物を見て仰天させられることがあります。
個々の案件処理・対応において、優れた戦術を展開するのです。
いったん弁護士業を離れて考えてみましょう。
会社等の法務一般について考えるとどうなるでしょうか。
定款や就業規則の整備、雇用契約書や各種取引に用いる契約書の雛形整備、勤怠管理・ハラスメント防止・コンプライアンス遵守のための体制整備etc.
これらは全て戦略面の対応です。
こうした戦略面での対応を講じたにも関わらず、紛争が発生した場合の個別の対応。
これが戦術面の問題です。
中小規模の会社においては、戦略面での対応が不十分なことも多々あります。
本業以外に十分な予算も手間もかけられないからです。
あるいは、戦略的にあえて法務のコストを抑えて、売上を高めているという場合もあります。
例えば、労働法規制を守らない、グレーな対応をとる方が、短期的には収益が良くなるといった発想です。
あるいは、大量の案件を捌くうえで、逐一細かい契約だのリーガルチェックだの挟まない方が、短期的にはスピーディかつ効率的ともいえます。
こうした会社において紛争が発生してしまった場合、色々と泥臭い戦術が必要になってくるわけです。
さながら「やれやれ」という具合に頭を掻きむしるヤンみたいな対応をとるわけです(実際はヤンみたいな格好良い弁護士など存在しませんが)。
上記した法務一般における戦略・戦術の話は、弁護士(事務所)の戦略・戦術ともリンクしてきます。
あくまで傾向ですが、恒常的・安定的に収益を上げる弁護士(事務所)は、顧問先企業の体制整備・維持(=戦略)に注力します。
他方、顧問先企業を抱えていない弁護士(事務所)は、スポットで依頼を受けた労働事件・契約紛争(=戦術)に対応することになります。
ラインハルトとヤン。
このブログを書いている私はどちらのタイプなのか?
あまりにおこがましくて、どちらも名乗れません。
せいぜいフォーク准将にならないよう、日々精進したいと思います。