弁護士の我松衰です。
物事には様々な見方があります。
どこに光を当てるのか、それによって見え方が変わってくるのです。
さて、突然ですがここでクイズを。
「進化」の対義語は何でしょうか?
「退化」と答えた方。
正解であり、不正解です。
一般的な言葉としての「進化」の対義語ということであれば、「退化」も正解です。
しかしながら、生物学の分野では「退化」も「進化」の一側面と考えられています。
目が良くない、飛べない、脚がないetc.
退化した・無くなった器官に余計はエネルギーを割く必要がなくなり、より環境に適した身体になっている動物はいくらもおります。
ですから、生物学の観点だと、「進化」の対義語は「停滞」とか「無変化」。
では、これを実生活に当てはめるとどうなるでしょうか。
私個人の見解としては、仕事においても
「『退化』は、『進化』に逆行する現象であるとともに、『進化』の一側面である」
ということがいえると思います。
ベテランの先生方を見ていると、時々そんなことを考えてしまう。
まぁ手を抜くのが上手い。
良く言えば、効率的で合理的。
悪く言えば、荒くて雑だ。
収益という観点で見れば、理にかなっているともいえる。
大量の案件をスピーディーに処理しちゃうわけですから。
ところが、こうしたやり方の場合、自ずと「大勝ち」の割合は減っていくし、時には「チョンボ」をやらかす危険だってある(タチの悪いことに、そうした時の火消し、エクスキューズは周到だったりする・・・。)。
他方で、難事件の逆転勝訴とか無罪判決をゲットするのは、意外にも駆け出しの若造であることが多かったりする。
はてさて「弁護士のレベル」を評価する際にどんな物差しを用いるべきか。
安定収益という点で見れば、上に見たようなベテラン先生は、紛れもなく若手時代より「進化」している。
他方、緻密さ・泥臭さといった点で言えば、実は「退化」しているという見方もできる。
この点にこそ、まさに仕事における最大のジレンマがあると思う。
仕事において、合理性・効率性という観点から見た最善手を選ぶことは、何ら責められるべきものではないでしょう。
しかし、最善手ばかりを打ち続けるとどうなるか。
どんな局面でも最善手ばかりが打てるわけではない。
時には次善の手を選択しなければならない場合だってある。
往々にして、次善の手では、膨大・緻密・網羅的な仕事を要求される。
そんな時、「合理的仕事人として最善手ばかりを打ってきた人間」はどうなるか。
膨大・緻密・網羅的な仕事に対する慣れ・勘が失われていれば、お粗末な結果に過ぎることだってありうるだろう。
他事務所の某先生を見るにつけ、そんな思いに駆られることしきりの今日この頃である。
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。