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バルトークにまつわるガセネタ

バルトークのピアノのための組曲Op.14 Sz.62 BB70を聴きながら帰宅。

 

久しぶりに聴く作品だ。

先日バルトークについてブログに書いたことから、思い出して聴いてみようと思った次第。

 

気になって本作についてネット検索してみると、「えっ!?嘘でしょ!?」と気になる記述が、複数のサイトで散見された。

 

いわく

①「第2楽章:スケルツォ 12音列を用いた下降形の冒頭」

だとか

②本作の2曲目に「十二音技法が使用されている」

だとか。

 

※問題の2曲目

youtu.be

 

結論から言うと、いずれも真っ赤な嘘、完全なるガセネタだ。

 

譜例を確認するのが手っ取り早い。

まず、冒頭1〜4小節目の音列。

12音どころか11音しか書かれていないし、最後の2音はオクターブ違いなので、実質10音しか使われていない。DとG♭が出てこない。

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次の5〜8小節目も同様に実質10音しか使われていない。DとB♭が出てこない。曲が始まってここまででDは一度も出てこない。

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ちなみに、続く9〜12小節目も13〜16小節目も下降音形だが、いずれも実質10音しか使われていない。

 

ということで

①「第2楽章:スケルツォ 12音列を用いた下降形の冒頭」

は完全なるガセである。

 

続いて

②本作の2曲目に「十二音技法が使用されている」

について

 

たしかに、17〜20小節目、21〜24小節目は、いずれも上昇音形の12音列が用いられている。

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しかし

「12音列が出てくる」

すなわち

「十二音技法が使用されている」

とはならない。

 

一般的に、十二音技法の場合、まず特定の12音列が設定され、そのヴァリアントでもって曲全体を構築していく。

単に部分的に12音列が出てきたからといって、その12音列が曲全体の構成の鍵を握っているのでなければ、「十二音技法が使用されている」とは言えない。

もし、この曲に「十二音技法が使用されている」と考えるのであれば、リストの「ファウスト交響曲」やリヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」についても、 「十二音技法が使用されている」と認めなければならない。

ファウスト」の第一楽章の第一主題には12音が出てくるし、「ツァラトゥストラ」の「科学について」のフガートにも12音が出てくるからだ。

これは一般的な理解・感覚に反する。

 

というわけで

②本作の2曲目に「十二音技法が使用されている」

もガセネタである。