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シュニトケ「きよしこの夜」

きよしこの夜」は、1818年、ドイツ人作曲家のグルーバーが作った讃美歌だ。

初演の際、教会のオルガンが壊れていたため、ギター伴奏で歌うよう作曲されたとかなんとか。

きよしこの夜」原曲

原曲の誕生から160年後の1978年、旧ソ連の作曲家シュニトケが編曲作品を残している。

シュニトケきよしこの夜」

おぉ怖い。

魔法少女まどか☆マギカ」とか「がっこうぐらし!」みたいな世界観だ。

我々のよく知っている「きよしこの夜」の、あの静謐で優しい世界観とは、まるで異なる。

同じような姿をしているが、実態は似ても似つかない、徐々に正体をあらわす怪異……。

 

本作はト長調で書かれており、構成は①〜④に分けられる。

①ヴァイオリンの独奏で始まる。

初めのうちは、やや貧相で乾いた感じながらも、柔らかい和音も使われている。

しかし、唐突に現れる不協和音(0:51秒〜)。

その後、何事もなく進むかと思いきや、またもキツい不協和音(0:58秒〜)。

②では、①が繰り返されるが、ピアノによるC♯のベース音が加わっている。

このベース音が、完全に「きよしこの夜」の世界にあってはならない音なのだ。

地獄の底から静かに聞こえてくる異界の音のようで、実に不気味だ。

③ピアノがメロディを、ヴァイオリンがピッチカートで調子外れの分散和音を奏でる。

聴感的には不協和度が少し和らいだように感じられるが、ピアノの硬く冷たい、それでいて妙に澄んだサウンドが不穏だ。

④再びヴァイオリンがメロディを担うも、不気味なフラジオレットによる不協和音が頻出する。

きよしこの夜」を騙る「そいつ」は、もはや凶々しい正体を隠す気もない。

最後にはヴァイオリンがG線のペグをぐい〜っと回し、彷徨うようにグリッサンドして締める。

という構成だ。

 

歌詞とにらめっこしながら聴くのも面白い。

①の不協和音は、" Schlaf in himmlischer Ruh! "(眠れ、天国の安らぎのなかで)の"Ruh! "(安らぎ)の部分で奏でられる。「安らぎ」だと思った「それ」は、「安らぎ」でも何でもない、何かヤバい奴なのだ!

ちなみに、②を歌詞の2番と考えると、" Christ, in Deiner Geburt! "(キリスト、あなたが誕生したときにおいて)の" Geburt! "(誕生したとき)の部分が不協和音だ。クリスチャンが聴いたら激怒するのではないか。

で、③を間奏、④を歌詞の3番と解釈すると、本作の最後は" Christ, der Retter ist da! "(キリスト、救世主はそこ)となる。"da! "(そこ)の部分で、ヴァイオリンがグリッサンドであてもなく彷徨うように曲を閉じる。「そことはどこですか……?神はどこにおわすのですか……?」という悲痛な嘆息だったのだ。あるいは、ありもしない救いを求めて、永劫彷徨い続ける亡者のうめき声のようでもある!!