『銀河英雄伝説』
今改めて見ると刺さります。
本作のテーマは「最良の専制政治VS最悪の民主政治」です。
「最悪の民主政治」は「最良の専制政治」には勝てません。
意思決定の内容もスピードも劣るからです。
本作の主人公の一人にヤン・ウェンリーという人物がいます。
作中屈指の人気キャラです。
旧アニメでは天才・富山敬の演技も相まって大変に魅力的なキャラクターです。
創作物における「やれやれ系の怠惰な天才軍師」のパイオニア的存在でもあります。
彼は同盟陣営(「最悪の民主政治」側)に所属しています。
同盟陣営では政治の機能不全が進み、選挙や権力闘争にのみ長けた愚かな「政治屋」が跋扈しています。
文民統制のもと、軍師ヤン・ウェンリーは「最悪の民主政治」の酷さを嫌というほど味わいます。
それでも尚、彼は民主主義の理念を信奉しています。
彼は「最悪の民主政治でも、最良の専制政治よりもマシ」だと信じて疑いません。
民主政治においては、失敗の責任を主権者である人民が負います。
良い結果も悪い結果も、全ては人民の成果と責任です。
専制政治を許せば、人民は主体的に考えることを放棄し、自らの命運を優れた「英雄」にのみ委ねてしまいます。
専制政治が今上手くいっていても、もし将来上手くいかなくなったら?
こんな社会が果たして健全なのか?
ヤンは民主主義をベターと考えるのです。
バーミリオン星域会戦では、あと一歩のところまで、帝国(専制政治側)トップのラインハルト元帥を追い詰めます。
ラインハルトを倒せば、帝国側(専制政治側)は大混乱に陥り、同盟陣営(民主政治側)は今後の戦略上も優位に立つことができたでしょう。
ところが、正にそのタイミングで、帝国軍に制圧された首都星ハイネセンの無能・悪辣な政治家達が、無条件降伏・停戦命令を発してしまいます。
現場の軍人達は、停戦命令を無視してラインハルトを倒すよう、ヤン・ウェンリーに進言します。
しかし、ヤンは停戦命令に従いました。
文民統制に愚直に従ったのです。
愚かな政治家を選んだのは人民の責任。
その政治家達が同盟を滅ぼす選択をしたのであれば、それも人民の責任。
誰か一人が「英雄」になって、人民の命運を背負ってコントロールすべきではない。
彼は民意を超越した「英雄」になることを拒んだのです。
これこそが彼の信奉する正義だったのであります。
このような判断をする彼だからこそ、逆説的に、彼は民主主義の理念を体現した「英雄」たり得たのです。