〇前提
・土地建物の所有者が死亡。
・所有者の相続人は、全員相続放棄を予定している(多額の負債があるため)。
・土地建物には20年間、亡所有者の愛人が単独で居住し占有している(愛人は①固定資産税は負担しておらず、②所有権移転登記手続を求めたことはなかった)
〇問題
1.愛人は土地建物を時効取得することができるか。
2.1に関し、愛人が訴訟提起するにあたり、特別代理人を選任できるか。
3.仮に時効取得ができない場合、使用貸借に基づく占有権原を主張し、居住を継続することができるか。
〇検討
1.愛人は土地建物を時効取得することができるか。
結論:主張(のでっちあげ。。ゲフンゲフン)次第では、可能。
・上記①及び②の事情のみでは、必ずしも他主占有とは認定されない(最判平成7年12月15日判タ898号194頁)
・上記最判によれば、⑴登記簿上の所有名義人に対していつからどの程度の金額が賦課されたのか、⑵占有者においていつそれを知ったのか、⑶所有者と占有者の人的関係(前者が後者へ生活援助をしていたか等)は、他主占有か否かの認定にあたり重要と考えられる(上記最判は控訴審には⑴及び⑵の審理不尽があるなどとして、破棄差戻ししている)。
・上記最判の事案は、差戻後和解しているため、⑵と⑶が具体的にどのように判断に影響するのかはよくわからない。
・本件では、訴訟において⑴従前の固定資産税額を主張立証し、⑵愛人においてこれを把握して所有者に対し固定資産税負担を申し出たが断られた事実、⑶所有者は愛人に対し生活援助をしていた事実等の事情を主張すれば、自主占有(時効取得)が認められる余地はありそう。
・手続上の観点としては、訴訟物は時効取得に基づく所有権移転登記請求権、被告は相続財産管理人or特別代理人である。相続財産管理人or特別代理人の訴訟対応としては、上記⑵及び⑶に関する主張に対する認否は「不知」とするものと予想される(⑵と⑶に係る事情は「言った者勝ち」と考えられる)。
問題:相続財産管理人は、所謂「時効完成後の第三者」であり、口頭弁論終結時までに所有権登記名義人氏名変更による登記を申請されてしまうと、愛人は負けてしまう?
⇒ 多分負けない
∵所有権移転ではなく、所有権登記名義人氏名変更ということは、実態としては被相続人(亡所有者)と同等の立場に立つと考えられ、所謂「時効完成後の第三者」に該当しない。
∵相続財産管理人が選任されているとしても、あくまで当事者は「相続財産法人(被告亡〇〇相続財産)」である(民法951条)。相続財産管理人が選任されたとしても、新たに「時効完成後の第三者」の登場が観念されるわけではない。
2.1に関し、愛人が訴訟提起するにあたり、特別代理人を選任できるか。
・結論
できる可能性が高い。
・問題の所在
相続人全員が相続放棄した場合、被告(相続財産という法人)の代理人として、相続財産管理人を選任しなければならないのがセオリー(予納金高い、時間かかる、めんどくさい)
そこで、相続財産法人について、特別代理人の選任申立てができないか(安い、迅速、簡単)。
・特別代理人を選任できる理由
∵民訴法35条1項は、相続財産(法人)を被告とする訴訟においても、準用される(大審決昭和5年6月28日民集9巻9号640頁)。
∵本件においては、相続財産(法人)の債権者が、債務名義を得て、土地建物について強制執行を講じる危険がある。「(相続財産管理人の選任を待っていては)遅滞のため損害を受けるおそれがある」(民訴法35条1項)として、特別代理人選任が認められる可能性は十分ある。
3.仮に時効取得ができない場合、使用貸借に基づく占有権原を主張し、居住を継続することができるか。
・結論
主張できそう(ただし、相続財産(法人)の債権者により、強制執行されるとアウト)。
・理由
相続財産管理人が選任されて、そいつが明渡請求訴訟を提起しない限り、愛人は居座りが可能。上記訴訟が提起された際に、使用貸借に基づく占有権原を主張することになる。
ただ、こうしたケースにおいて使用貸借の終期がどのように判断されるかは不明。