1 はじめに
「ジョジョの奇妙な冒険」第6部には、「天国」なる概念が登場する。
この「天国」に行く方法を考案した人物こそ、ジョースター家(「ジョジョ」シリーズの主人公一族)の宿敵DIOである。
富と権力を手にし、世界を我が物とすることにしか興味のなかったDIOが「天国」を目指したのは一体なぜだろうか?
果たして、プッチが主張するように、全人類に覚悟を持たせることこそが皆の幸福になるなどと考えたのだろうか?
あれこれ妄想を広げて考察してみよう。
2 DIOの性格から推測する「天国」像
DIOのモットーは、「一番の金持ちになる」、「世界の頂点に立つ」、「安心を得る」、「勝利して支配する」ことである。
第1部、第3部におけるDIOの行動は、こうしたモットーに基づくものであり、一切ブレることがない。
第1部では、遺産目当てで養親のジョースター卿を殺害したうえ、世界征服の野望を胸に、吸血鬼の力を手に入れ、義兄弟のジョナサンを殺害している。
7年間も生活を共にし恩義のある彼らを葬るのにまるで躊躇いがない。
また、100年後の世界である第3部では、ジョナサンの体をのっとり復活。
有能なスタンド使い達を部下に従えて、ジョースター家の殲滅、世界征服に乗り出すという執念深さを見せる。
このように他人を全く顧みない徹底した利己主義こそが、DIOの性格上の特徴である。
こうしたDIOの性格に照らすと、彼が「天国」に行く方法を考案したのも、利己的な算段に基づくものと考えるのが自然だ。
3 プッチ神父が主張する「天国」
DIOは「天国」に行く方法を考案し、自身のノートに記録するも、承太郎に敗北し、志半ばで死亡する。
その際、承太郎は、DIOの残したノートを読後に焼却してしまう(第3部)。
DIOの遺志を継いだプッチ神父は、自身の能力(ホワイトスネイク)で承太郎の記憶を盗み出し、「天国」に行く方法を会得、「天国」の完成を企てる(第6部)。
プッチ神父の説明によれば、「天国」とは、「人類全てが自らの運命を理解し覚悟した世界」である。
平たく言えば、全ての人が、自分の身に何が起こるのかをなんとなく予測することができる世界、予測することはできてもその未来を改変することができない(運命として固定されている)世界である。
プッチ神父に言わせれば、このような世界であればこそ、人々は運命を受け入れて覚悟を決めることができる、これこそDIOが目指した「天国」である、ということらしい。
4 DIOの目論見
プッチの意図はともかくとして、徹底して利己的なDIOの狙いは、「人類の幸福」ではなく、あくまで「自分の幸福」だったに違いない。
では、DIOが目指した「自分の幸福」とは一体何だったのか。
注目すべきは、「天国」を完成させるためには、“DIO自らのスタンド、ザ・ワールドを捨てる必要がある”点である。
“スタンドを捨てる”ことは何を意味するのか。
「ジョジョ」におけるスタンドとは、使用者本体の精神の具現ともいうべきものであり、本体の分身のごとき存在である。
スタンドへのダメージは、そのまま本体へのダメージとして反映されてしまう。
たしかに、「ジョジョ」では、本体が死亡してからも活動を続けるスタンドや、本体の死亡を発動条件とするスタンドが描かれている(例:チープトリック、ノトーリアスB・I・G)。
しかし、その逆、つまり、スタンドが破壊されても本体が生きているというのは、描かれたことがない。
おそらく、「スタンドの破壊、それすなわち、本体の死」は、全てのスタンド使いに共通するルールであると考えられる。
実際、当のDIOにしても、自らのスタンド、ザ・ワールドを承太郎に破壊されたことで死亡している(第3部)。
このことから、ザ・ワールドを捨てることは、すなわち、本体DIOの死を意味すると考えられる。
しかし、繰り返しになるが、DIOのモットーは、「世界の頂点に立つ」、「安心を得る」、「勝利して支配する」ことであり、彼の行動原理は一貫した利己主義である。
彼が自分の死後のために計画を立てるとすれば、それは「他人のため」ではなく「自分のため」のはずである。
では、なぜ「天国」の完成が「自分のため」になるのか。
「天国」の完成過程でDIO本人は死んでしまうのに。
DIOのシナリオでは、「天国」の完成後、自身の復活が予定されていたのではないだろうか。
絶体絶命のピンチを経験し(第1部)、100年後に奇跡の復活を遂げたDIOは(第3部)、世界征服を目論むにあたり、ジョースター家をはじめとする敵との戦い、命の危険を予期したはずである。
そこで考え出されたのが「天国」の完成という一連の計画だったのではないだろうか。
DIOのシナリオはこうだ。
自分が殺されてしまった場合に備え、誰かに自分を復活させてもらう必要がある。
そこで選んだのがプッチ神父である。
プッチは、DIOを心底から敬愛しており、DIOに逆らう、歯向かうなどという発想を全く持っていない(ように見える)。
しかも、運命に翻弄された悲しい過去を持つ人物であり、DIOの教え諭す「天国」論に迎合する有能なスタンド使いである(ように思える)。
さらに、プッチはDIOの部下ではなく、カタギの人間であり、ジョースター一行に狙われるおそれがないという点も重要である(実際には、DIOのノートが燃やされてしまったので、承太郎の記憶を盗むために、ジョースター一行と接触・対決せざるを得ない羽目になるのだが)。
DIOのシナリオを実現するうえで、プッチはまさにうってつけの人材である。
プッチであれば、DIOの死後、確実に「天国」を完成させてくれるはずである。
しかも、あわよくば、DIOの遺志を汲んでジョースター家をはじめとする邪魔者も抹殺してくれる。
他方、DIO自身は、プッチの肉体を乗っ取る形で復活するつもりでいたのではないだろうか。
プッチと融合した緑色の赤ん坊(元はと言えばDIOの骨)が暴走、プッチを生贄にしてDIOへと転生することが予定されていたのではないか。
DIOの目的は、ハナから自身の復活にあったのであり、プッチは何も知らずに動かされるコマでしかなかった(DIOの予定では)というわけだ。
5 DIOが目指した「天国」
DIOの目的は自身の復活にとどまらない。
まず、「天国」完成の過程でメイドインヘブンの能力を手に入れることができる。
プッチは、メイドインヘブンについて“最強になるための能力ではない”としたが、DIOにとってみれば、メイドインヘブンは“最強になるための能力”として十分すぎるほど魅力的だ(ザ・ワールドと近い能力を持つ承太郎が、アナスイと協力することでようやくメイドインヘブンに対抗することができたのを思い出してみてほしい)。
しかも、メイドインヘブンの能力の本質は、時の加速にとどまらない。
まず、第一に、時の加速により、自身の運命を予期することができる。
これは、第5部のラスボス、ディアボロの能力エピタフに似た効用である。
また、第二に、運命は本来改変することができないものの、メイドインヘブンによる時の加速の最中は、運命の現実化を回避することができる。
根拠は二つある。
まず、原作中、宇宙の一巡により、全ての人が生涯の運命を(つまりは死も)体験しているはずだが、皆死んでしまうことなく無事に一巡後の宇宙に到達している。
これは、時の加速中、運命は精神で体験されるにとどまり、現実化することはないということである。
また、プッチ神父の“運命から逃れることは出来ない、この私以外はな”という旨の発言とその後の行動も重要である。
一巡前の宇宙では、時の加速開始時点(ケープカナベラル)の前において、プッチは無事に生きていたのであるから、一巡後の宇宙においてもケープカナベラル以前では死ぬ運命にはなかったはずである。
ところが、自身の未来において邪魔者となるであろうエンポリオを始末すべく(未来の運命から逃れるべく)、プッチは時の加速を発動させてしまった。
これにより、皮肉にも運命は未確定の状態となり、本来であれば死ぬはずのなかったケープカナベラル以前において死ぬという結末を迎えてしまったのだ。
このように、時の加速には、運命を未確定にする、本来の運命が現実化することを回避するという効用がある。
これは「時間を消し飛ばす」ことで都合の悪い未来を回避するというディアボロの能力キングクリムゾンにも似ている。
こうしたメイドインヘブンの特質に照らすと、DIOが目指した「天国」とは、以下の構想だったのではなかろうか。
①時の加速により未来を体験する(加速した状態では運命は現実化せず、精神がこれを体験するにとどまる)
②体験した未来が気に入らなければ、一巡後の宇宙に切り替わってから、加速開始時点の以前で加速を止める(この時点では①で体験した運命は確定していない)
③加速開始時点が到来してしまう前までに、時の加速を再度発動させつつ(運命を未確定の状態にしつつ)、①で体験した「不都合な事態」(改変したい運命)に関係する人物を殺害する等して、運命を改変する
④希望通りの未来を体験するまで上記①〜③の操作を繰り返す
つまりッ!!
「ザ・ワールド」の能力を捨て去るかわりに、
「メイドインヘブン」というステゴロ最強の能力を手に入れるにとどまらず、
実質的には
「擬似エピタフ」(運命の予測)、
「擬似キングクリムゾン」(時の加速により運命の現実化を回避)、
「擬似バイツァ・ダスト」(加速開始前の任意の時点で加速を止める)、
「擬似D4C」(自身に都合の良い宇宙の創世)
の能力を手に入れることが、本来のDIOの目的でありッ!!
この一連の構想こそがッ!
DIOの考えた「天国」だったのではないだろうかッ!!?
6 さらにさらに妄想
プッチは、実のところDIOを裏切っていたんじゃなかろうか?
DIOのノート(承太郎の記憶)を余すことなく見たプッチは、DIOが自分を利用しようとしていたこと、DIOの真の目的に気付いてしまったはずだ。
ところが、ノートには、DIOが復活する「プランA」だけでなく、DIOが復活しない「プランB」も記載されていたのではないだろうか。
DIOが実現したかったのは勿論「プランA」だが、自身の考察やら何やらを書き連ねる中で、勢い「プランB」もノートに記載されてしまったのではなかろうか。
心底DIOに心酔していたプッチは「プランBこそがDIOの目指した崇高な『天国』に違いないッ!!」などと曲解し、これを実現しようとしたのではないだろうか。
あまりに虫の良い「天国」論を提唱していた作中のプッチの言動からして、さもありなんである。
本来、DIOは、ノートを見せるのではなく、口伝えにより「天国」に行く方法(プランA)をプッチに伝授するつもりだったはずだ(もちろん、プッチの肉体を乗っ取って自身が復活するということは伏せた上で)。
ところが、伝授前に承太郎に倒されてしまったがために、プッチがノート(承太郎の記憶)を余すことなく見てしまい、作中では「プランB」が実行されたということなのだろう。。。(というかなり強引な妄想)
7 止まらない妄想
荒木先生の構想としても、当初はDIOを復活させるおつもりだったんではなかろうか。
DIOはイタリア語で「神」を意味する。
聖職者(プッチ)の自己犠牲により、キリストよろしく「復活」し、身勝手な「天国」論を振りかざして「神」を自称する「タチの悪いラスボス」として、DIOは再登板するはずだったのではなかろうか。
プッチの過去エピソードを重く描いたことで、キャラが深掘りされたこと等を考慮して、DIO復活案はボツになったのではないだろうか。。。(という滅茶苦茶に無理矢理な妄想)