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衝撃の現代音楽【ピアノ編】

弁護士の団堂八蜜です。

 

本日のお題は

「衝撃の現代音楽【ピアノ編】」

 

現代音楽というのは、一般的には、クラシック音楽のジャンルのなかで、主に第二次世界大戦後に創作されたものをいいます。

 

好き好んで聴く人が極めて少ないジャンルです。

中二心をくすぐられる楽しい作品ばっかりなのに!

 

本稿では、現代音楽の範疇に入らない戦前の作品から、戦後の過激な作品まで、時系列を追う形で全11曲のピアノ作品を紹介していきます。

 

後の時代のものになるにつれて、次第に「これ音楽なの?」感が強くなっていくという流れになっています。

1960年代の作品が「これ音楽なの?」感のピークにあたると思います。

順を追って聴いていくと、20世紀のクラシック音楽史をさらったような錯覚に陥ること間違いなし。

 

「ただの雑音」

「詐欺師の所業」

スノッブ乙」

といったネガティブな感想から

 

「意外と面白いかも」

「むしろ大好き」

「ゲテモノ最高」

といったポジティブな感想まで

 

色んな反応があると思います。

皆さんはどう感じるでしょうか。

 

・・・・・・

 

・戦前の20世紀ピアノ曲

 

セルゲイ・プロコフィエフ(1891年4月23日 - 1953年3月5日)

トッカータ」(1912年)

Martha Argerich plays Prokofiev toccata - YouTube

クラシックのくせにカッコいい。「ダカダカダカダカ…」と同音連打で機械的に刻まれるリズムが、いかにも20世紀前半モダニズムを感じさせる。が、まだまだ前衛的という程ではない。

ちなみに⬆︎のサムネはプロコフィエフではなくピアニストのアルゲリッチTOKIOの松岡ではない。

 

 

イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882年6月17日 - 1971年4月6日)

「ピアノ・ラグ・ミュージック」(1919年)

STRAVINSKY Piano Rag Music 1919 (Konstantin Semilakovs) - YouTube

第一次世界大戦前後にアメリカで流行したラグタイムの影響を受けて作曲された作品。

「ラグ」というのは「ボロ」、「不揃い」、「デコボコ」といった意味。

リズムや楽想が「不揃い」「デコボコ」に変化していき、いかにも珍妙奇天烈な感じ。

このギクシャク感が、伝統的な西洋流の美観から逸脱した面白さなのかもしれない。

 

 

ベーラ・バルトーク1881年3月25日 - 1945年9月26日)

ピアノソナタ」から第3楽章(1926年)

Béla Bartók - Piano Sonata [3/3] - YouTube

民族音楽の要素がふんだんに取り入れられており、野生的なダークさが魅力の作品。

ドイツ、イタリア、フランスなどのいわゆるクラシック本流の音楽とは、いかにも雰囲気が違う。

このくらいだと、まだちょっとビターなクラシックという感じか。

 

 

アントン・ヴェーベルン(1883年12月3日 - 1945年9月15日)

「ピアノのための変奏曲」(1936年)

Anton Webern - Variations op.27 (w/sheet) - YouTube

ここからギブアップという人が多そう。

この曲は、ヴェーベルンの師匠シェーンベルクが創始した(といわれる)十二音技法を使って作られている。

十二音技法というのは、ドからシまでの十二音をまんべんなく使用する作曲法。

我々が親しんでいる普通の曲には調性がある。例えば「ハ長調」の曲であれば、ドの音が中心的役割を果たす。

他方、十二音技法では、中心となる音をあえてなくしてしまう。これにより独特の聴感が得られる。

ヴェーベルンの音楽は、点描的とも言われ、音数の少なさと曲の短さが際立っている(この曲も全3楽章合わせて6分くらいしかない)。独特の冷たい感覚と間合いが魅力。

音程やリズムを理詰めで構成する彼の音楽スタイルは、戦後の現代音楽の潮流に大きな影響を与えたといわれる。

 

 

オリヴィエ・メシアン(1908年12月10日 - 1992年4月27日)

「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」から第10曲「喜びの聖霊の眼差し」(1944年)

Messiaen: Vingt Regards - X. Regard de l'Esprit de joie - Pierre-Laurent Aimard - YouTube

メシアンらしい熱狂、神秘性、官能性にあふれた作品。

ヴェーベルンより聴きやすい」と思う人と「無理!」と思う人、両方いそう。

「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」では、十二音技法ではなく、メシアンが体系化した独自の旋法とリズム法が随所に盛り込まれている。

20世紀の多くの作曲家達は、これまでの音楽にない「未聴感」を求め、新たな音楽理論の構築に躍起になっていた。

 

 

・戦後の20世紀ピアノ曲


ピエール・ブーレーズ(1925年3月26日 - 2016年1月5日)
ピアノソナタ第2番」から第1楽章(1948年)
Pierre Boulez - Piano Sonata No. 2, I - YouTube

十二音技法を用いて書かれた作品。

同じ十二音技法でもヴェーベルンとはだいぶ印象が違う。

まるで宇宙人の演説のような音楽だ。

「何言ってるか全然わかんないけど、謎の迫力と説得力があるな」感が半端じゃない。

ブーレーズはこの後、十二音技法を更に発展させた総音列技法や、管理された偶然性等、新たな音楽理論を主唱。現代音楽界をリードしていくことになる(ただ、ピアノ曲に限って言えば、後年のものよりも、若書きのこのソナタの方が聴いてて面白いと思う。)。

クラシック音楽作品を通史的に聴いて、ブーレーズ作品に行き当たると、「まぁ流れ的に誰かがこういう作品を書いただろうな」という歴史の必然のようなものを感じる。

ブーレーズという人は「キチガイじみた感性を持つ危険な前衛芸術家」などではなく「西洋芸術の伝統と美意識を受け継いだ良識ある秀才」だったのかもしれない。

 

 

ジョン・ケージ(1912年9月5日 - 1992年8月12日)
ソナタとインターリュード」から「ソナタ1」(1948年)
Sonatas and Interludes for Prepared Piano: Sonata I - YouTube

プリペアード・ピアノという、ピアノの弦にゴム、金属、木などを挟んで音色を変化させたピアノを使った作品。

西洋の連中とはいかにも違うセンスを感じさせる。アメリカ人のケージは東洋思想に傾倒していたそうだが、さもありなんというところか。

独特な間の美しさ、静謐な魅力に溢れている。

この作品に限らず、ケージの作品はひたすら優しさに満ちているように感じられる。

現代音楽によくある冷たい理知性ではなく、優しさ、無垢さのようなものが、ケージ作品には共通して備わっているように思う。

ところで、ケージは、当初ブーレーズと盟友のような関係にあった。

もっとも、ケージが提唱した新しい音楽理論である「偶然性」の是非を巡り、両者は真っ向対立。

最後まで仲違いしたまま2人とも亡くなってしまった。

これについてもいつか書きたいと思う。

 


カールハインツ・シュトックハウゼン(1928年8月22日 - 2007年12月5日)
ピアノ曲X」(1961年)
Pollini / Stockhausen Klavierstuck X - YouTube

ブーレーズに比べると、いかにもワルでエキセントリックなかんじ。

グリッサンド(鍵盤の上で手や指を滑らせて音を出す奏法)やド派手なトーンクラスター(隣同士の鍵盤をまとめてぶっ叩いてグワァーンとかギャンみたいな音を出す手法)の効果が鮮烈。

適当に鍵盤をぶっ叩くだけの作品かと思いきや、総音列技法を用いて書かれており、楽譜の記載はかなり緻密。演奏は死ぬほど難しい。

普通に弾くと手を傷めるので、指抜き手袋をはめて演奏する。

この作品は何も弾かずに残響を活かす部分が多く、減衰していく音の美しさや静寂がまた魅力的。

 


コンロン・ナンカロウ(1912年10月27日 - 1997年8月10日)
「自動ピアノの為の習作」から第21番「カノンX」(1961年)

Nancarrow, Study #21 for Player Piano (Canon X, score) - YouTube

アメリカ人作曲家のナンカロウは、メキシコへ政治亡命後、現代音楽界の動向なんぞどこ吹く風、自宅に引き篭もり、自動ピアノのための風変わりな作品を作り続けた。

彼は、音楽の三要素であるリズム、メロディ、ハーモニーのうち、リズムに絞ってひたすら独自の探求を行った。

本作「カノンX」もそんな作品の一つ。

4音/1秒の速度で低音の声部①が奏でられる一方、39音/1秒の速度で高音の声部②が流れる。

次第に声部①は速度が上がっていく一方、声部②は速度がどんどん下がっていき、そのうち相互の速度が交差する(二つの声部の速度の推移が「X」のようになる)。最後は声部①がめっちゃくちゃ速くなって音程も上がっていき、カオス状態になったままあっけなく曲は終了。

この作品に限らず、ナンカロウ作品は、意外にもメロディ自体は古いジャズみたいな親しみやすさを持っている。が、リズムやテンポ等の構造に関しては、ほとんどキチガイじみた実験が繰り広げられている。後期のものは特に凄い。人間には絶対に弾けない。

 


スティーヴ・ライヒ(1936年10月3日 - )
「ピアノ・フェイズ」(1967年)
Reich: Piano Phase - YouTube

しばらくの間、①と②のパートが全く同じフレーズを同時に繰り返し演奏する。

そのうち、②のパートが少しずつ速度を上げていき、①と1音ズレた状態でシンクロしたら、また同じ速度で互いに同じフレーズを繰り返す。

すると、また②のパートが少しずつ速度を上げていき、今度は①と2音ズレた状態でシンクロしたら、また同じ速度で互いに同じフレーズを繰り返す。

すると、以下略・・・。

という物凄くシンプルなコンセプト(フェイズ・シフティングという技法)で作られた曲なのだが、効果は絶大。

独特のトリップ感が得られる。

演奏はかなり難しいのだが、2台のピアノを並べてこの曲を一人で演奏してしまうというトンデモナイ強者も出てきている。

 

 

ジェルジュ・リゲティ(1923年5月28日 - 2006年6月12日)
「ピアノのための練習曲集」から第13番「悪魔の階段」(1993年)
Ligeti - L'escalier du diable - YouTube

過激な作品の数々で名声を博すも、1970年代後半以降、創作停滞のスランプ状態に陥っていたリゲティ

1980年のこと、パリのレコード店でマイナー作曲家の作品集を見つけた彼は、気まぐれにこれを購入。

何の気なしに聴いてみたらトンデモナイ衝撃を受けた。

「な、なんじゃこの作曲家はぁぁぉぁ!!」

と言ったかどうかは分からないが、とにかく驚愕した。

ヴェーベルン、アイヴズ以来の発見だ!」

その作曲家こそ、「カノンX」の作曲者コンロン・ナンカロウであった(リゲティによる発見を機に、ナンカロウは高く評価されるようになった)。

ナンカロウに触発されたリゲティは、複雑怪奇な「ピアノのための練習曲集」を創作した。

スランプ脱出!よかったね!

本作はこの練習曲集の第13番にあたる作品である。

演奏効果の高い作品で、現代ピアノ曲としては、私は一番好きかもしれない。

 

 

・・・・・・

 

以上「衝撃の現代音楽【ピアノ編】」でした。

オーケストラ編やら何やらは気が向いたらまた書くかもしれません。

 

ではまた!

 

 

※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。