弁護士の阿部士義信です。
今回のテーマはズバリ「尋問」。
ドラマなんかでもおなじみの手続きですね。
裁判手続きにおける見せ場の一つでもあります。
ポピュラーではありますが、これが大変に難しい。
尋問技術の深遠なる奥義、神髄には、私なんぞまだまだ達することができておりません。
これからも勉強、鍛錬あるのみです。道は長い。
(余談ですが、ベテランのおじいちゃん、おばあちゃんでも、時々「ドンデモねぇ」尋問をする人がいます。経験年数が長けりゃ良いってもんではないようです。逆に言うと、単に経験だけでカバーできるものではない、そのくらい難しいものだ、ということかもしれません。)
(またまた余談ですが、現在放送中のドラマ「まだ結婚できない男」では、吉田羊演ずる弁護士が登場していますね。さっそく第1話で尋問をやってましたが、観ていて思わず「えぇぇぇ?!」と面食らってしまいました。またの機会に当ブログにてイジるかもしれません。ドラマに突っ込むのも野暮かもしれませんが。)
尋問技術の総論的なお話、イロハについては、各所でイヤというほど論じられており、書籍も一杯出ております。
今さら私から何か付け加えるようなお話しはございません。
今回は、私自身の備忘のため、ごくニッチな各論のお話しをしたいと思います。
どれだけ需要があるのか甚だ疑問ではありますが、あくまで自分のために。
具体的には
「駐車場内の通路進行車VS駐車区画進入車の交通事故事件で、過失割合が争点となる裁判での尋問」
についてです(硬いなぁ)。
交通事故事件では、過失割合がしょっちゅう問題になります。
加害者が一方的に悪い(過失割合が加害者側100%:被害者側0%)とされる類型、パターンというのは、それほど多くありません。
実務上、過失割合が争われないケースの大半は
「信号待ちをしている被害者車両に加害者車両が追突した」
とかそんなパターンですね。
過失割合は
①事故の発生場所はどんな所か、
②その場所の交通規制はどうなっているか、
③行為主体(加害者、被害者)は運転者か歩行者か、運転者なら何に乗っていたか、
④行為主体はどんな属性の人(児童、高齢者、障害者等)か、
⑤具体的な歩行・運転の態様はどうであったか、
といった点を総合的に考慮して判断されます。
たいていの事件では、通称「緑の本」というヤツを参考にします。
この「緑の本」というのは、過失割合が争点となった交通事故訴訟の各種裁判例を分析し、事故の類型ごとに具体的な過失割合を示した書籍です。
正式名称は
「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」
とかいうそうです。
いま手に取って確認するまで私も知りませんでした。
交通事故を扱う弁護士事務所、損害保険会社、裁判所だったら、どこにでも置いてあると思います。
交通事故事件に携わる者にとっては必携の書ですね。
「そんな便利な本があるなら、過失割合なんて簡単に決まるじゃん。」
「なんで争いになるの。」
という疑問の声が聞こえてきそうです。
しかしながら、実際のところ、過失割合はよく争いになるのです。
争いになるのは大抵こんなパターンです。
1.「緑の本」記載のどの事故類型にあたるかが争いになるパターン
「緑の本」(全訂5版)には、全部で【1】~【338】の事故類型が記載されています。
例えば、こちらが
「本件事故は【107】の類型だ!だからあなたの過失の方が大きい!」
と主張しているのに対し、
相手方が
「いやいや、【123】の類型だ!だからそっちの過失の方が大きい!」
などと反論してくることがあります。
(※番号は適当です)
事故の発生状況について、全然認識が違うというパターンですね(もちろん、どちらかが故意に嘘をついているということも有り得ます)。
このような場合、事故の発生状況を示すものとして、ドライブレコーダー等の客観的な証拠が乏しいときは、簡単には決着がつきません。
2.事故類型については争いがないが、細かな修正要素(の有無や内容)について争いがあるパターン
例えば、同じ【107】の事故でも、
「現場の見通しはよかったか」、
「徐行はしていたか」、
「一時停止したか」とか、
そんな事情の有無によって、
過失割合が例えば70:30ではなく、90:10に変わったりとかなんとか、
そんなことが起こり得ます。
(※番号、修正要素、過失割合、いずれも適当です)
これも客観的な証拠が乏しいケースだと、解決は容易ではありません。
3.そもそも「緑の本」があんまり役に立たないパターン
一番悩ましいパターンかもしれません。
尋問との兼ね合いで私が書きたかったのは、これについてです。
でも長くなったので、続きはまた今度(導入だけで終わってしまった!)。
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。