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石田純一「ハンムラビ法典?」②

弁護士の団堂八蜜です。

 

前回に引き続き、ハンムラビ法典に関するお話です。

 

ハンムラビ法典を現代に適用した場合

 

1.不貞行為をするとどうなる?

 

という疑問については

石田純一「ハンムラビ法典?」【微閲覧注意】① - 弁護士法人フィクショナル・公式ブログ(架空)

で検討しております。

 

本日の検討事項は

 

2.おチン◯ンを切られたら、おチン◯ンを切り返すことができる?

 

結論からごく簡単に申し上げると

 

法典の文言上はハッキリしません。

 

チ◯切り返しを認めるには、いくつかのハードル、論点がありそうです。

 

まず前提として、この問題を考えるにあたっては、同害報復の原則を規定した196条、197条、200条が主に関係してきます。

 

有名な「目には目を、歯には歯を」というヤツですね。

 

196条が「目には目を」、197条が「骨には骨を」、200条が「歯には歯を」について規定しています。

 

「骨には骨を」の知名度は「目」と「歯」にくらべるとガクッと落ちますね。

「骨」かわいそう。

 

これらは、決して復讐を奨励する趣旨の規定ではありません。

 

あくまで同害の報復に限定して認め、過大な復讐や、復讐の応酬・連鎖を防ぐという趣旨の規定です。

 

目を潰されたのに、歯を折っちゃいけない、やり返して良いのは、あくまで目を潰すことだけだ、お互い目を潰したらそれ以上の応酬はするな、ということです。

 

罪刑法定主義(何が犯罪に該当するのか、ある犯罪に対してどのような刑罰を科すべきか、あらかじめ定めておくべきであるという立場)の先駆的意義を持つと評価される規律です。

 

さて本題です。

 

「おチン◯ンを切られたら、おチン◯ンを切り返すことができる?」

 

結論を出すにあたり、ポイントは4つあります。

 

(1)同害報復の原則はおチ◯チンにも適用されるか

1つ目は、「目」とか「歯」に関する同害報復の規定が、例示列挙なのか、限定列挙なのか、という問題です。

 

すなわち、規定の読み方として、「目」や「歯」はあくまで一例であって、「手」や「足」等、他の部位についても同害報復の原則が適用される(「目」や「歯」は例示列挙にすぎない)とも読めそうです。

 

この解釈の場合、「おチン◯ンには、おチン◯ンを」という結論になります。

 

しかし、仮に例示列挙なのであれば、一つの条文にまとめることも可能です。

 

「目には目を、歯には歯を…」と列挙したうえで「他人に傷害を負わせた者は、同一部位に対する同程度の傷害をもって償わなければならない」などと規定するやり方です。

 

旧約聖書では同害報復についてそんなかんじで書かれていますね。

 

例示列挙するならこの方が合理的でしょう。

 

ところが、ハンムラビ法典では、わざわざ196条、197条、200条と分けて規定されています。

 

「手」や「足」等、規定に書かれていない部位については、同害報復の原則が適用されない(「目」や「歯」は限定列挙されたものである)とも読めそうなのです。

 

なんなら、文言上はこう解釈する方が自然です。

 

この解釈の場合、「おチン◯ン」に関しては規定ナシということになります。

 

極論すると、チ◯切りに対しては、目、歯、骨さえ無事であれば、相手をボコボコにしてもOK(目、歯、骨を怪我させると、同害報復されてしまうが、他の部位ならOK)、その代わり、相手からも更に仕返しに遭う、更にこれに対する仕返し…と報復の無限連鎖が起きるということもあり得ます。

 

流石にこの解釈は不合理な気がします。

 

前回の記事でも記載したとおり、実際にはハンムラビ法典も厳格には運用されていなかったようです。

 

同害報復の原則が定められたそもそもの趣旨に立ち返るならば、前者の解釈である例示列挙説、すなわち、同害報復の原則はおチン◯ンにも適用されるという結論になりそうな気がします。

 

(2)加害者と被害者が対等の身分同士か

2つ目は、同害報復の原則は、対等の身分同士の者にしか適用されないという問題です。

 

198条、199条、201条、202条、205条を見ると、身分の異なる者同士の場合、同害報復の原則は適用されていません。

 

現代の価値観からすれば「差別ひどい!」ということになるでしょう。

 

おそらく当時の感覚としては「違うモノを違うように扱っているだけ」であって、「差別」という意識すらないのだと考えられます。

 

例えば聖書にしたって、奴隷制度を否定していません。

 

人は人、奴隷は奴隷であり、異なる存在だという前提に立っているのです。

 

異なる存在である以上、異なる扱いをしても差別にはならないという発想なのでしょう。

 

もっと言えば、それが「差別になるか」という問題意識すらないのだと思われます。

 

ともあれ、現代の曰本において「奴隷制」が存在しないという前提に立つのであれば、身分云々の点は問題にならなさそうです。

 

(3)おチ◯チンへの傷害は軽微か

3つ目は、被害が軽微な場合について、同害報復の原則は適用されないという規律との関係です。

 

法典上、相手をビンタした場合には、金銭賠償するという規律になっています(203条、204条)。

 

これもビンタに限らない例示列挙か、ビンタに限った限定列挙かは問題になりそうです。

 

同害報復の原則と同様の理由から、この規律も例示列挙と解する方がバランスが良いような気はします。

 

この前提に立てば、おチ◯チンへの傷害についても、軽微な場合には、同害報復の原則が適用されないということになります。

 

仮に加害者によるチ◯切りが、「バッサリ」いくような行為態様の場合、軽微傷害とは言えないでしょう。

 

この場合、結局、同害報復の原則が妥当すると考えられます。

 

(4)「わざとじゃありません」と誓約した場合にどうなるか

4つ目は、過失による傷害や致死について、同害報復の原則が適用されないという規律との関係です。

 

法典上、殴打による致傷や致死について、過失によるものである旨の誓約をした者には、同害報復の原則が適用されないとされています(206条、207条)(ここでは便宜上「過失減刑」と名付けておきます。)。

 

過失致傷の場合、治療費のみの賠償。

過失致死の場合は、一定額の賠償が義務付けられています。

 

ちょっと横道に逸れますが、「仮に嘘っぱちでも過失だと誓約さえすれば減刑になるというのは変じゃない?」とも思います。

 

この点については、現代と比べ物にならないほど、信仰心が強い時代、「神の前で嘘はつけない」と考えられた時代だからこそ通用した規律なのでしょう。

 

本題に戻りますと、やはりこの規定も、暴行の方法としての殴打が例示列挙か、限定列挙かは問題になります。

 

限定列挙説(過失減刑素手の場合だけと考える立場)に傾く要素として、素手と武器有りとでは、悪質性が全く異なるという点が挙げられます。

 

悪質な武器使用については、誓約による減刑を認める根拠が乏しいように思われます。

 

また、暴行態様として「刃物を使ったけど怪我すると思わなかったです」は、可能性としてゼロではありませんが、素手の場合よりは想定し難いように感じられます。

 

限定列挙説を採用することが合理的な気がしてきます。

 

しかしながら、ハンムラビ法典には、正当防衛に関する規定がありません。

 

「相手が刃物を出してきたので、防衛のため刃物で威嚇したら、相手が襲いかかってきて、誤って刺さってしまった」などといったケースも考えられます。

 

事と次第によっては、過失減刑を認めた方が、事案解決としては妥当なように思われます。

 

「過失の場合は悪質性が低いから減刑しましょう」という206条、207条の趣旨にも合致します。

 

過失減刑の規定は例示列挙であり、状況次第では、武器使用のケースにも適用されると解しても良さそうです。

 

仮に過失減刑の規定が適用される場合、チ◯切り加害者に対しては、治療費しか請求できないということになります。

 

もう一つの論点として、現代に過失減刑を適用する場合、「過失だったと誓約さえすれば当然に減刑となるのか」は議論の余地がありそうです。

 

昔のように皆信仰心に篤いわけではありませんから。

 

この規律をそのまま適用すべき前提を欠いているように思えます。

 

(5)結論

「おチン◯ンを切られたら、おチン◯ンを切り返すことができる?」という紛争が裁判になる場合

 

①「同害報復の原則は例示列挙か」

 

②「①が例示列挙だとしたら、当該事案に過失減刑の規定が適用されるか」

 

③「②が適用されるとしたら、過失だったと誓約さえすれば減刑となるのか」

 

④「③で減刑とならない場合、当該加害者によるチ◯切りは実際のところ過失によるものか」

 

という点が主な争点になるものと見込まれます。

 

①YES・②NOなら

→チ◯切り返しOK。

 

①YES・②YES・③NO・④NO

→チ◯切り返しOK。

 

①NOなら

→チ◯切り返しに限らず、目、骨、歯を破壊しなければ、報復OK。

もっとも、報復の無限連鎖となる可能性あり。

 

①YES・②YES・③YESなら

→チ◯の治療費しか請求できない。

 

①YES・②YES・③NO・④YESなら

→チ◯の治療費しか請求できない。

 

という結論になります。

 

多分こんな感じで整理できそうですね!

万事解決!スッキリ!

 

 

阿部定「私の場合はどうなるの?」

 

 

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(不貞や傷害など何らかのトラブルに巻き込まれた方は当法人へご相談を!)

 

 

※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。