弁護士の団堂八蜜です。
※本記事は、性的な話題を含む微閲覧注意記事です。
不貞行為に関する当法人の記事
元アイドルとの不倫の代償 - 弁護士法人フィクショナル・公式ブログ(架空)
について、先日こんなコメントを頂戴しました。
「こんな奴はチ◯切り刑だ。
私も知り合いにチ◯切りされそうです。
目には目を、チ◯にはチ◯をでそいつを去勢できますか?法的根拠を述べよ。」
※一部不適切な点は伏せ字にして引用しております。
なんかちょっとヤバい空気がムンムンです。
それはさておき、この方がおっしゃっているのは、おそらくハンムラビ法典のことでしょう。
「目には目を、歯には歯を」
の法格言で超有名な古代法ですね。
「ハンムラビ法典を適用するとどうなるんだろう?」
というのはたしかに気になるところ。
私自身、不倫相手の夫と目下係争中ですし。
(詳細は弁護士紹介 - 弁護士法人フィクショナル・公式ブログ(架空)を参照のこと。)
疑問は以下の2点に集約されそうです。
疑問1.不貞をするとどうなる?
疑問2.おチン◯ンを切られたら、おチン◯ンを切り返すことができる?
実務には何の役にも立たない問題ですが、検討してみました。
現代にあてはめるとどうなるか、という視点で検討しております。
古代バビロニアは、現代とはあまりに状況が違っており、真面目に考え出すと意味不明なことになりますので。
また、金銭賠償とかそんな話も出てくるのですが、貨幣価値換算はしていません。
計算できないというのもありますが、そもそもこの時代にも、貨幣価値が変動したりしてたとか何とかなので。
なお、ハンムラビ法典の全文和訳や逐条解説等の論文は、ネット上にも転がっています。
著作権やら何やらの関係で面倒なので、引用等はしませんが。
・ハンムラビ法典とは
紀元前1792年から1750年にバビロニアを統治したハンムラビ王が発布した法典です。
現在はルーブル美術館所蔵。
・ハンムラビ法典の構成
前書き・本文・後書きの三部構成です。
前書きにはハンムラビの業績、本文には条文、後書きにはハンムラビの願いが記載されています。
本文の一部は、現在では確認することができません。
・本文の構成等
現代の視点でみると、なんだか雑然とした印象を受けます。
近代憲法のようなメタルール(ルールの在り方や運用についてのルール)がありません。
公法と私法の区別がありません。
実体法と手続法の区別もありません。
民事法と刑事法も未分化のままです。
条文の並び方についても、我が国の民法が採用するパンデクテン方式のような体系性・論理性はありません。
パンデクテン方式とは、一般的・抽象的な「総則」を先に置いておいて、具体的な規定を枝分かれさせていく方式のことです。
ただ、保険制度、信託、デリバティブ等、先進的な概念の萌芽が散見されるのは、なかなか驚異的です。
曰本なんかまだ縄文時代ですからね、当時。
構成は雑ですけど。
疑問1.不貞をするとどうなる?
典型事例についての適用条文は、法典129条です。
・妻が間男と寝ているところを誰かが現認した場合
→ 二人は縛られて水中に投げ入れられる
ただし
・夫が妻の救助を願い、かつ、国王が間男を許した場合
→ 二人は許される
という規律のようです。
本規律について、ポイントは4つあります。
1つ目は、一緒に寝ているだけでアウトだということです。
性交渉自体が既遂か未遂かは関係ありません。
一緒に寝ているだけで死刑です。
2つ目は、現行犯でなければならないことです。
当時どうやって現行犯性を立証したのか疑問ですね。
現代のように、写真を撮るというわけにもいかないですから。
「二人が寝ているところを見ました!」
という申出があったとして、これが真実か嘘か、どうやって見分けるんでしょう。
「この人も一緒に見ていたんです!証言してくれます!」
とか言ったって必ずしも信用はできません。
証人が買収等されている可能性もありますから。
こういう偽証の恐れが、現代よりも深刻な問題となる時代だったからこそ、「神の前で嘘はつけない」という信仰や教育は大変重要だったのかもしれません。
3つ目のポイントは、妻のみが貞操義務を課せられていることです。
129条で規制されているのは、妻の不貞のみです。
夫の不貞を禁止する規定はありません。
4つ目のポイントは、他の規定によって、結局は夫も事実上の貞操義務を負っているということです。
具体的には130条、154条、155条、156条による規律が挙げられます。
130条は、婚約者がいる処女を強姦した男は死刑、当該女性は無罪放免という規定です。
154条は、他人の娘と肉体関係を持った者は、その他人が追放を命じた場合、都市から追放されるという規定です。
155条は、息子とその妻が既に肉体関係を持っていた場合、その女性と寝ているところを現認された父親は、水中に投げ入れられる(=死刑)という規定です。
156条は、息子とその妻が肉体関係を持つ前に、先に肉体関係を持ってしまった父親は、その女性に対して銀1/2ナマ(約250グラム)の賠償金を支払い、嫁入り道具を返還し、他の意中の男性に嫁がせる義務を負うという規定です。
155条や156条で、息子の妻がお咎めなしとされているのは、処罰してしまうと可哀想だという配慮かもしれません。
夫の父という強い立場を利用された場合、半ば強姦の様相を呈することもママあるでしょうから。
これらに加え、先の129条により、事実上、夫も貞操義務を負っているのと同様の結果となります。
すなわち
・未婚女性を相手とする不貞
→ 死刑又は追放(130条、154条)
・既婚女性を相手とする不貞
→ 死刑又は損害賠償等(129条、155条、156条)
となります。
これらの規定は、夫の貞操義務を定めたものではありません。
あくまで、婚約者を持つ男性(130条)、娘を持つ男性(154条)、妻を持つ男性(129条、155条)、息子の妻(156条)に対する義務として規定されたものです。
めちゃんこ男性優位な価値観ですね。
現代ではとても考えられません。
これら規制のいわば反射的な効果として、既婚男性は、事実上の貞操義務を負っているということになります。
余談①
未婚女性や同性愛者による性交渉等には規制なし
男性の場合、既婚者であれ未婚者であれ、寡男(やもお。妻を失った男性。)であれ、自分の妻以外の女性と性交渉等に及ぶことについて、制裁が規定されています(129条、130条、154条、155条、156条)。
他方、未婚女性や未亡人(寡婦)に対しては、性交渉等に関し、何らの制裁も置かれていません。
また、同性間の性交渉等についても、何の制裁も設けられていません。
同性愛を禁ずる規定もありません。
これら規制対象外の性交渉等については、強姦の場合、故意による傷害行為として、制裁が課されたのだと考えられます(詳細は次回記載予定)。
余談②
強姦被害に遭った既婚者の処遇はどうなる?
各規定を素直に字義通り解釈すると、強姦被害に遭った既婚者は、原則、死刑や追放等の処罰を受けることになりそうです。
というのも、先の130条、155条、156条は、一定のパターンの強姦についてのみ、被害者の処罰を免除する旨規定しています(少なくともそのように解釈できます)。
一定のパターンについてのみ、処罰の免除が規定されていることからすると、規定のない他のパターンについては、被害者も処罰されてしまうと解釈するのが自然です。
強姦といえど、婚外の異性との性交渉であることには変わりありませんから。
これはいかにも不当ですね。
ハンムラビ法典も、実際の運用上、厳格には適用されず、慣行やら裁判例やらの蓄積によって、ルールが精緻化していったのではないでしょうか。
実際、バビロニアから発掘された粘土板による記録を精査すると、必ずしも判決と法典の内容とが一致していないそうです。
上記のような強姦事例についても、寛大な大岡裁きがなされていた可能性は十分あります。
ただ、現代でも、強姦事案であろうと、問答無用で被害者を死刑にするトンデモ国家が存在するくらいです。この辺は何とも言えませんね。
・疑問1.についての結論
長くなりましたが、現代曰本でハンムラビ法典を適用した場合、不貞行為者に対する規律はこんなかんじになります↓
・男性に対する規律
・未婚女性との性交渉
→ 父親がキレたら追放
・婚約者のいる処女を強姦
→ 死刑
・息子と肉体関係有りの息子妻と一緒に寝てるところを見つかる
→ 水中にドボン(死刑)
・息子と肉体関係無しの息子妻と性交渉
→ 息子妻に銀約250グラムを賠償し、嫁入り道具を返還し、意中の男性に嫁がせる義務を負う
・既婚女性と一緒に寝てるところを見つかる
→ 下記の「女性に対する規律」参照。
・女性に対する規律
既婚女性が間男と一緒に寝ているところを見つかった場合
→ 縛って間男もろとも水中にドボン(死刑)。
現行犯じゃなきゃお咎めなし。
夫が妻の助命を求め、かつ、国民投票(※)で間男を許すとの結論が出た場合、二人は無罪放免。
(※)現代曰本において、最高主権者は「王」ではなく「国民」です。ハンムラビ法典を愚直に現代に適用すれば、こう解釈するのが素直でしょう。
まだ疑問2.が残っていますね。
長くなりますので、これについてはまた次回。
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。