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尋問は難しい【超ニッチな各論】後編

弁護士の阿部士義信です。

 

前回の投稿からだいぶ期間が空いてしまいました。

 

尋問の超ニッチな各論・後編です。

完全に自分の備忘のための投稿になります。

 

交通事故で困るのが

「緑の本」があんまり役に立たないパターン

です。

 

よくあるのが

「駐車場内の通路進行車VS駐車区画進入車の交通事故事件で、過失割合が争点となる裁判での尋問」

です。

 

駐車場内で、駐車区画に停めようとバックしている車と、後ろにいる車がぶつかっちゃうという事故ですね。

 

私個人に関していうと

通路進行車側の代理人として4件担当したことがあります。

 

交渉で解決することはなく、全て訴訟にまで発展しています。

訴訟においても、話し合いで簡単には解決せず、事故当事者に対する尋問まで進んでいます。4件とも。

裁判官がかなり踏み込んだ心証を開示して、ようやく和解か、さもなくば判決をもらっています。

 

なぜ交渉での解決が難しいのか。

 

全ての元凶は「緑の本」です。 

 

これ見ると基本の過失割合が

通路進行車80:駐車区画進入車20

になってるんですね。

 

原則は、通路進行車が悪いと判断されるのです。

 

「駐車場では駐車区画に入れようとする車が優先するから、他の車は十分注意してね」

という発想です。

 

駐車区画進入車側の保険会社担当者も

「うちのお客さんの過失は20%です。」

「緑の本」もそうなってます。これ以上は譲れません。」

機械的に対応してきます。 

 

通路進行車に乗ってた人はたまりません。

 

よくあるパターンとしては

「いきなり相手が止まって、バックしてきたんですよ。」

「それ見て私の方も止まりましたけど、バックして回避できるような状態じゃありませんでした(※後ろが歩道・車道だとか、通路内一方通行の指示が出てるとか、すぐ後ろに後続車がいるとかの事情がある)。」

「相手が後方確認せずにバックしてきて、こっちはなす術もなく停止してたらドン!ですよ。」

「なんでこっちの過失が80%なんですか?!」

といった感じです。

 

「緑の本」には一応

「通路進行車の過失の有無自体が問題となる態様の事故などについては、本基準によらず、具体的な事実関係に即して個別的に過失相殺率を検討すべきである。」

とちゃんと書いてあります。

 

要するに必ずしも80:20にはならんよということです。

 

(現に私が担当した訴訟4件に関しては、この基本過失割合で解決したのは1件もありません。具体的には、10:90、20:80、30:70、50:50で解決しています。)

 

しかしながら、ドライブレコーダーはまだそんなに普及していません。

煽り運転が取り沙汰されるようになってから増えましたけど、まだまだです。

 

多くの場合、「過失の有無自体が問題となる態様」とか「具体的な事実関係」なんてのは、言った言わないのレベルの話になってしまいます。

 

そら話し合いでまとまるわけがありません。

両方とも「自分は悪くない!」と思ってるんですから。

訴訟まっしぐらです。

 

で、本題の尋問についてちょろっとだけ書きますと

準備書面はごく大雑把に書いて、尋問で細かく質問する」

 

というスタンスが適切だと個人的には思っております。

 

準備書面

「あのとき、被告は〇〇していた、〇〇していなかった」

と細かく書くべきではありません。

 

これ書いちゃうと

「記憶にない」とか「それは~~という事情があったからだ」とか

色々言い逃れをする機会・言い訳を考える時間を与えてしまいます。

 

尋問の当日、相手代理人による検討というフィルターを通さず、

いきなり相手本人に細かな質問をぶつけるべきです。

 

実際にもその方が有利に運びやすい印象があります。

 

で、裁判官は意外と「緑の本」に考慮要素として挙げられていない事情も気にしています。

コマ送り的に、相手の挙動を細かく質問すべきです。

たとえ「緑の本」書いていない項目でも。

 

たいていの人は、何とか自分の潔白をわかってもらおうと考えます。

明確に嘘をつく意図まではなくとも、自分に有利めに誇張して答えてしまうということは、往々にしてあるのです。

そんな人に対して細かく質問していけば、必ず矛盾やボロが出ます。

そしたらしめたものです。

 

逆にいうと、交通事故訴訟で相手の書面がやっつけ、適当だった場合、油断なりません。

戦略的に「やっつけ」書面を提出している可能性もあります。

 

緻密な反対尋問が飛んでくることを想定して、依頼者とシミュレーションしておく必要があると思われます。

 

 

※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。