弁護士の団堂八蜜です。
本日は弁護士がよく使う内容証明郵便についてのお話を少し。
内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書が誰から誰あてに差し出されたかということを、郵便局が公的に証明してくれる郵便のことです。
実務上、内容証明と略して呼ぶことが多いですね。
使う目的は色々とございます。
何らかの「意思表示」をする場合に使うことが特に多いですね。
この「意思表示」というのは法律用語です。
「意思表示」というのは、例えば、何らかの権利を行使する、あるいは、何らかの義務を免れる(例:契約を解除する)という意思を外部に表明することをいいます。
我が国の法律では、何らかの権利を行使したり、義務を免れるためには、この「意思表示」を行う必要がある場合が多いのです。
ごく簡単なものだと、「これ買います」、「これ売ります」、「これ貸します」、「これ借ります」というのも全て「意思表示」です。
すごく身近な概念ですね。
この「意思表示」、通常、方法は何でもOKとされています。
直接対面しての口頭でも、電話でも、メールでも、手紙でもOKです。
では、内容証明で「意思表示」をする意味は何なのか?
一つには、相手方との間で紛争になっている・なる可能性がある場合に、「言った言わない」という水掛け論になる事態を回避する意味合いがあります。
特にシリアスなのが、時効の問題が絡んでくる場合等です。
例えば、貸金債権の場合、個人同士の貸し借り等は、10年で時効によって消滅します(民法167条1項)。
(※返済期日が契約で決まっていればその期日から10年。決まってない場合は貸した日から10年で時効にかかります。民法160条1項)
もっとも、我が国の法律では、「10年経つと自動的に貸金債権がなくなってしまう」ということにはなりません。
貸金債権を時効で消すためには、「時効を援用する(時効の利益を享受する)」という「意思表示」を行う必要があります(民法145条)。
この「意思表示」をしなければ、貸金債権は依然として残ったままです。
それどころか、この「意思表示」をする前に、債権者に対して「返しますから」、「ちょっと待ってください」などと言おうものなら、債務承認をしたとして、消滅時効が中断してしまいます(また10年経たないと消滅時効にならない)(民法147条3号)!!
なぜこんなヘンテコな仕組みになっているのか。
この点については、時効による利益を受けるのを潔しとしない当事者の意思を尊重することにあるなどと説明されます。
実際には、民法の当初の理念とは関係なく、サラ金業者などにこの点を「悪用」されることが多いのですが。そのお話はまた別の機会にでも・・・。
貸した側の立場から考えた場合も、「意思表示」を行った証拠を残すことには大いに意義があります。
なぜなら、消滅時効により貸金債権が消えそうな場合等には、「催告」、要は「貸した金返せ」の「意思表示」をすることによって、一時的に消滅時効を中断させることができるからです(ただし、その後6か月以内に訴訟提起等の手続きをとる必要があります)(民法153条)。
そんなわけで、時効が絡んでくると権利者も義務者も必死です。
「意思表示」をした証拠を残すために、内容証明を利用するわけです。
ちなみに、内容証明で「意思表示」を行う場合、実務上、配達証明というサービスも併用することが多いですね。
配達証明では、相手が郵便を受け取ったこと、受け取った日付を郵便局が証明してくれます。
内容証明では「郵便を差し出したこと」、「差し出した日付」、「差し出した手紙に書かれた文面が何か」を証明してもらえます。
他方、配達証明では「相手が郵便を受け取ったこと」、「受け取った日付」を証明してもらえます。
配達証明を併用しないと何か問題があるのか。
せっかく内容証明を出したのに、相手が「そんなの受け取ったかな~。」「いつ受け取ったのかわかんないな~。」などとしらばっくれる可能性もあります。
上述したような消滅時効が絡んでくる場合、事態は深刻です。
例えば、貸金債権が消滅時効間近のギリギリのタイミングで、債権者が時効中断をすべく「催告」の「意思表示」を内容証明で行ったとします。
ところが、配達証明はつけていなかった。
すると後日、債務者が時効援用の「意思表示」を内容証明で行ってきた。
配達証明もつけて。
債権者
「ワシが時効中断しとるやないかい!その後で時効援用しても無駄やで!」
債務者
「ほ〜そうでっか。せやけど、アンタから内容証明受け取ったのは、ワシの内容証明がアンタんとこに配達されたのよりも後やったと思うで。たしか。いつ配達されたか、アンタの方で証明してくれます?何?できまへんの?そら残念やったの〜。」
などという事態も起こり得ます。
この場合、債権者の側で「催告」の「意思表示」が先に到達したことを証明できず、負けてしまう恐れがあります。
このような事態を回避するために、配達証明のサービスも併用するわけです。
内容証明に関するお話はまだまだ尽きないのですが、また改めてということで、本日はこのあたりで失礼いたします。
あと、上述の時効についても、民法改正で結構変わってきます。
これにつきましても、気が向いたら書きたいと思います。
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。