法適用の判断について、フローチャートを使い始めたのは誰だろうか。
伊藤真大(だい)先生は「私が始めた」とおっしゃっていたような気がする。
「『法学はコンピュータではない』と学者から批判されたものだ」などともおっしゃっていたかと思う。
今日では、裁判所の公式ページにも、手続の流れについてフローチャートが掲載されていたりする。
例えば、訴状送達とか。
あれも大先生の影響なのだろうか?笑
訴状送達とフローチャートで思い出すのが、私にとってのブレイクスルー。
学生時代に勉強していて、大きな衝撃を受けた出来事である。
悲しいかな、ふわっとした極めて曖昧な内容しか思い出せない。
送達のなかでも、付郵便送達か何かに関する問題だったと思う。
裁判所の公式ページに掲載されているような、あの問題ではない。
もっとニッチで難解な論点だ。
しかし、実務で一度も使ったことがない。
あぁ思い出せないのが悔しい。
当時、その論点に関し、私は裁判例・判例評釈・基本書・講義の書き起こし・関連論文を読みながら、あーでもないこーでもないと唸っていた。
司法試験や実務にはなーんの役にも立たない。
諸事情から仕方なしに読んでいただけだ。
しかし、全然頭に入ってこない。
眠くて仕方ないので、紙と鉛筆を使って、あれこれ書き出してみた。
しばらく書いているうちに、徐々に思考が整理されていく感覚を味わった。
そのうち、その論点に関し、結論を導くために重要なパラメータのようなものが四種類あることに自力で気が付いた。
各パラメータは、2~4くらいのパターンにそれぞれ仕分けすることができた。
汚い手書きでマトリックスのようなものを書いてみた。
四次元配列なので、他人にも分かるように綺麗に書き下すことはできなかった。
しかし、書き上げてみて、私は震え上がった。
静かだけれど、猛烈に熱い感動を覚えた。
私が書き上げたその四次元配列は、条文・裁判例・通説、その全てを矛盾なく統一的に説明してみせるものだったのだ!
様々な状況における各結論について、明晰に説明することができた。
それだけではない。
その四次元配列には一か所だけ空欄があった。
条文・裁判例・通説のいずれも、結論を明言していない部分だ。
この部分については、何らかの理屈を組み立てて、自説を展開する必要がある。
学生ながら私は「これが法学・法律の議論なんだ!」と確信した。
条文で説明できるものは条文で。
通説で説明できるものは(裁判例と矛盾しない限度で)通説で。
いずれも使えない場合は?
裁判例の射程に関し立論してみたり、通説の発想を拡張してみせる。
そういうことだったのか!
どんな問題だったのか、もはやまーったく覚えていない。
しかし、あの時の熱い感動だけは、つい昨日のことのように思い出せる。