弁護士の阿部士義信です。
当法人の我松は顔が広く、同業者はもちろんのこと、他業種の方々との会合にもよく顔を出しております。
その中には顔馴染みの方も大勢いらっしゃるようです。
仕事でわ〜っと切羽詰まっている時
「◯◯先生と◯◯さんが、◯◯の件で問題になった◯◯と◯◯して……」
と雑談を振られると
こちらとしては思わず
「へぇ〜そうなんですね!」
と生返事してしまうことがママございます。
私自身はこの「◯◯」はどれも知らないんですが。
「◯◯って何ですか?」
と訊き返す余裕もないわけです。
だから仕方がない。
そうすると何が起きるか?
「この間の◯◯の件で、やっぱり◯◯とさらに◯◯が加わって◯◯になってさぁ…」
とかなってくると
ますます訳ワカメになってくるんですよ。
早口でお話しされると、聴き取りが難しいということもあります。
知らない人と知らない人が、知らない件で、知らない事をして、知らない事態になったことになってるわけです。
今更「◯◯ってなんですか?」て聴けないし。
そんな中でも、某◯◯さんは、比較的登場頻度が高く、雑談の中で2週に1回くらいは登場します。
その度に出来事が累積していきます。
私が当法人に移籍してきて5年になりますから、単純計算でいくと、130話分くらいはエピソードが累積しているわけです。
週刊少年漫画だったら単行本で13巻まで進んでいるくらいです。
13巻といえば
探偵を始めた不良少年が、なぜか妖怪達と仲間になり、武術大会に優勝した後、魔界と人間界を隔てる扉が開かないよう奮闘しているところです。
あるいは、とってもラッキーなヒーローが、地球の危機を救い、さらに、闇落ちした宇宙最強の元ヒーローを倒した後、裏宇宙の支配者による宇宙侵略を見事に防いだのも束の間、16の小宇宙(宇宙と裏宇宙の1セットで小宇宙)のメンバーで構成される大宇宙統一トーナメントに参加している真っ最中です。
あるいは、吸血鬼と死闘を繰り広げた青年の孫の孫が、同級生と一緒に航空機内でクワガタムシと戦っているところです。
さぞかし某◯◯さんまわりでも、怒涛の展開続きだと思うのですが、悲しいかな、私は全く話についていけないのです。
「前回までのあらすじ」もないし、今さら訊けないし。仕方ないですね。
たまにご依頼者様との打合せでも似たようなことが起こります。
建物明渡請求訴訟の打合せなのに、なぜか一族の長い長い因縁の物語が語られ始めることなんかは一度や二度ではありません。
大抵は聴いても意味がないので遮りますが、カットインしにくい場合もあったりします。
そんな時は完全に話をスルーして考え事をしております(作戦とか見通しを考えているのであって、「腹減ったなぁ」とか「今期は何のアニメ観ようかなぁ」とか考えているわけではありません。そんなこと考えていません。考ません。)
ところが、訴訟の展開次第で、この一族の物語がひょんな伏線となることもあります。
そんな時は
「極めて重要な点ですので、もう一度詳細にお聞かせいただけないでしょうか。」
とお願いしております。
これはまだ良い方で、そもそも聞いたこと自体覚えていない場合もあります。
そんな時、ご依頼者様に質問を振ると
「前にも話したことですが」
とかチクリと前置きされて、イラリとすることなんかもあったりします。
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。