2000年代前半頃まで、小澤征爾は間違いなく世界最高峰の大スター指揮者だった。
彼は「コンクールで優勝してデビューし、世界中の名門オーケストラに客演するスター指揮者」というロールモデルのハシリでもあった。
(このレベルに達した日本人指揮者のフォロワーは本日時点では皆無だが)
伝統的には、指揮者といえば、まずヨーロッパの地方歌劇場のコレペティトゥーア(裏方)として下積みをしながら、オペラのイロハを学ぶ。
そのうち本番も振るようになり、監督になり、上のランクの歌劇場のポストを得る等する。
徐々に名声を高めていき、コンサートも振るようになる。
40代、50代はまだまだ「ひよっ子」で、60代からようやく一人前扱いされる。
といった具合だった。
他方、小澤征爾は、こうした伝統的なキャリア・下積みを経てこなかった。
しかし、猛烈な勉強家であり、コンサート指揮者としては世界トップクラスの評価を得ていた。
特に近現代ものが大変素晴らしかった。
オペラが彼のアキレス腱だったのだ。
2002年にウィーン国立歌劇場音楽監督に就任以降、キャリアに翳りが出始めた。
当時、ウィーン側にはジャパンマネーに対する期待もあったのだと思う。
しかし、評価はふるわなかった。
オペラの指揮は、コンサートの指揮とは勝手がまるで違うというのは、プロの指揮者の多数が認めるところである。
いかな努力家といえど、経験の乏しさは如何ともし難かったのだろう。
現地での酷評が影響したのか、2010年にはウィーン国立歌劇場のポストは退任し、在任中から体調・病状も悪化、コンサートへの登壇頻度も少なくなっていった。最近は開店休業状態だったように思う。
私の個人的な思いとしては、オペラには手を出さず、コンサート指揮者としての道を極めきった世界線の小澤征爾を聴いてみたかった。
長きにわたる闘病生活、お疲れ様でした。
どうか安らかに。