クナッパーツブッシュが1960年にウィーン・フィルを指揮したスタジオ録音。
初めてその存在を知った時は随分と面食らったものである。
「くるみ割り人形」(特に組曲)といえば、初心者向けクラシック入門曲の超典型レパートリー。
19世紀生まれドイツ語圏の大御所巨匠指揮者が取り上げるというのは、ちょっと考えにくい。
晩年の古今亭志ん生が、前座噺の「寿限無」を取り上げるような、「師匠、ご冗談でしょ?」と言いたくなる「異常」さである。
しかし、これがギャグでも茶化しでもパロディでもなく、正に絶品なのである。
クナッパーツブッシュのゴツゴツとしながらも悠々とした堂々たる運び。
この時代のウィーン・フィルの温かく柔らかな甘い音も素晴らしい。
「大人のお子様ランチ」とでもいうべき味わいだ。
序曲の優しいニュアンスからして、もうたまらない。
「三丁目の夕日」に出てくるような、昭和の一般家庭のクリスマス。
バタークリームケーキを用意して、ツリーを飾り付けし、家族仲良く団欒。
決して裕福ではないけれど、皆が元気で仲の良い健やかな家庭。
そんな幸福な空気に包まれている。