読めば読むほど、謎が深まり、一向に真相には辿り着けない。
しかし、妙に惹きつけられる。
読み込むうち「自分も箱男になってしまうのではないか」という怖さもある(読者がそう思うことは、安部公房自身、意図して狙っていたはずだ。作中、箱男のことが気になってしまい、気にとめすぎるあまり、箱に魅入られ、箱男になり果てるAという人物について記述されている。)。
「箱男」は実に面白い構造を持った書物だ。
「箱男」という書物は、箱男が記述したノートを、さらに転記した書物という体裁がとられている。
「箱男」という書物が実在するこの現実の世界に、「箱男」の中で展開されるあの異様な世界が実在しているというメタフィクションなのである。
「あの男は罪を犯した男ですから、したがってぼくがあの小説を書くためにその罪を犯したことになると思います。でもあの男の正体はだれにもわかりません。ぼくが「箱男」の中で読者に伝えようとしたのは、箱の中に住むことはどういうことなのかと考えてもらうことでした。
以上、wikiからの孫引き。
では「罪を犯した男」=「箱男」の作者は一体誰なのか。
各所に散りばめられた手掛かりをもとに、仮説を立てながら読み進めるものの、矛盾と見受けられるような記載に出くわすたび、頭を抱えてしまう。
気になって何度も読み返してしまう。
完全に安部公房の術中である。
私流の推理を進めるための前提・出発点を、個人的備忘のため列挙しておこう(今後何度も読み返すうち、加除修正等を余儀なくされるかもしれないが)。
・「箱男」は、ノートの内容全てを転記した書物である。
・「箱男」には、ノートに記載・掲載されていない内容は一切記載・掲載されていない。
・「箱男」の各断章、新聞記事、スナップ写真、詩は、元のノートに記載・掲載された順番どおりに記載・掲載されている。
・原則として、各断章の記載内容は、原記述者(その記載内容を一番最初に書いた人)の(作中における)現実の認識を正直に記載したものである。
・例外として、(作中における)現実の出来事としてあり得ない部分、虚偽又は反事実であるとノートの中で指摘されている部分(そのように推測すべき部分)は、空想等である。