弁護士法人フィクショナル(架空)

架空の国の架空の弁護士によるブログ

山下和仁よ永遠なれ

初めて「展覧会の絵」のCD音源を聴いた時、世界がひっくり返るような衝撃を受けたものだ。

山下和仁の超越的な天才ぶりというのは、それはもう、なろう系主人公ばりに凄まじい。

長崎ギター音楽院の設立者である父・山下亨による指導のもと、ギターの腕をメキメキと上達させる。

1977年(当時16歳)、ラミレス(スペイン)、アレッサンドリア国際(イタリア)、パリ国際(フランス)の世界三主要ギター・コンクールで、いずれも史上最年少にして1位入賞。

1980年には(当時19歳)、「展覧会の絵」全曲を自らクラシックギター演奏用にアレンジし初演するに至る。

これが本当にもう……とにかく凄い。

超・超絶技巧と全く独自な特殊奏法のオンパレード。

特にえげつないのは最後のプロムナードだ。

親指でベース音を弾きつつ、人差し指と薬指で人工ハーモニクスをしながら、小指の高速往復運動でトレモロする……いやもうこれ完全に頭おかしいでしょう。

19歳の青年が独力でこれを考案し、演奏してみせたんですよ。

当然ながら、こんなのは世界中の他の誰にも弾けませんでした。

(2010年代くらいからか、本作全編演奏を披露する勇敢なギタリストが、片手で数える程度には現れるようになった。しかし、今なお、あの悪魔的な気迫と身体性まで含めて、山下の領域に到達した者は皆無である。)

 

山下の演奏を批判するのは簡単です。

研鑽の経歴、演奏フォーム、楽曲解釈、その結果として出てくる音楽、何から何まで、完全にアカデミズム(正統派)の埒外の人でしたから。

山下自身、そんなことは百も承知でしょう。

 

私が思うに、音楽におけるアカデミズムの真髄というのは、伝統の継承にある。

素材となるエチュードが存在し、権威ある流派の師匠に弟子入りして、こなすべき練習プログラムを地道にこなす。

そうやって、先達の技巧を伝統として受け継ぎ、次世代へと更に継承していくわけです。

 

しかし、山下和仁の演奏スタイルは、他の誰にも真似できない。

再現性がなく、伝統にはなり得ない。

したがって、他者に継承することもできない。

山下の技は、本来であれば、本人の死とともに"ロストテクノロジー"となる運命だったのかもしれません。

他ならぬ山下自身が痛感していたことでしょう。

 

だからこそなのか、年齢を重ね、子供達が生まれると、山下のスタンスは変わっていきました。

子供達との合奏や伝統的レパートリーの演奏に注力し、超絶技巧の誇示は鳴りを潜めるようになったのです。

誇示ではなく、継承へ。

ご長男・光鶴氏はベルリン芸大に留学した後、現在は、前述の長崎ギター音楽院の院長をされているそうです。

死してなお、山下の魂と音楽は、不滅なのかもしれません。