事実と評価の区別や、主要事実と間接事実の使い分け。
法律家にとっては基本中の基本です。
しかし、よくよく注意しないと、この辺りの区別がいい加減になってしまうことがあります。
自然言語というか日常会話では、事実よりも評価の方が使い勝手が良く、ついつい評価的な文言を使いがちです。その方がコンパクトだし、要約的だし。
しかし、書面を起案する際、基本的にはまず事実をちゃんと丁寧に記載すべきです。
まず事実ありきです。
「築古」とか「高額」とか「暴言」とか、使い勝手の良いコンパクトなワードに逃げないよう、気を付ける必要があります。
「築古って、具体的にはいつ建築されたの?」
「高額って、具体的には幾らなの?なぜ相場より高いと言えるの?」
「暴言って、いつ、どこで、誰が誰に対して、どんな状況で、どんな語調で、何を発言したの?」
評価的な文言を書く前に、まずはこうした事実をちゃんと記載する必要があるわけです。多くの場面では。
面倒でも記録を読み返し、丁寧に事実を拾ったうえで、評価的な文言・結論につなぐためのそれらしい理由付けをしなければいかんのです。
主要事実と間接事実も同様。ちゃんと意識的に区別しなければなりません。
主要事実とは、法律要件のことです。何らかの法律効果を発生させるために必要な事実であり、基本的には条文に書かれています。
他方、間接事実とは、主要事実の存否を推認させる事実です。
例えば、注文住宅を建築してもらったところ、屋根が雨漏りしているので、請負業者を訴えたいという場合を考えてみます。
契約不適合責任(瑕疵担保責任)を追及する場面ですね。
民法562条1項本文には
「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。」
と書かれています(この条文は559条により請負契約にも準用されます)。
「契約の内容に適合しないもの」は、契約不適合責任を追及するための主要事実です。
それでは、本件における「雨漏り」は、「契約の内容に適合しないもの」に当たるでしょうか?
言い換えると、「雨漏り」は主要事実でしょうか?間接事実でしょうか?
正解は、間接事実です。
「雨漏り」とは、雨水が建築物のどこかから漏れ出し、家の中に滴り落ちてくることをいいます。
雨水が屋内に滴り落ちる原因としては、様々な可能性が考えられます。
屋根や板金の経年劣化かもしれませんし、施工不良が原因かもしれません。
施工不良が原因でなければ、請負業者に対して契約不適合責任を追及することはできません。
「雨漏り」という事実は、必ずしも施工不良があったことを意味しません。
あくまで施工不良があったことを推認させる間接事実に過ぎないわけです。
「雨漏り」の他に、「本件の注文住宅は◯年◯月◯日に建築された」という間接事実と相まって、「経年劣化による雨漏りは考えられない」という評価が可能となり、施工不良があったという結論が導き出せるわけです。
ところで、便宜上ここまで「施工不良」という言葉を使ってきましたが、これは事実ではなく評価です。
事実として記載するならば、例えば「屋根と外壁の境界部分の不接合」などと記載することが考えられます。
「施工不良」とは、あくまで「屋根と外壁の境界部分の不接合」という事実に対する評価に過ぎません。
「屋根と外壁の境界部分の不接合」が主要事実に当たります。
さらにややこしい話をすると、「契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)という概念は、それ自体非常に抽象的です。評価的な概念です。
頭の体操として、こうした要件事実は、一般的な主要事実ではなく、規範的要件事実として整理することが可能です。
「屋根と外壁の境界部分の不接合」は、注文住宅が通常備えるべき性状を欠く状態であるから、「契約の内容に適合しないもの」(契約不適合)と評価できる、という具合に考えるわけです。