昨日ちょっとしたご縁から大和証券企画の辻井氏ピアノリサイタルに伺った。
辻井氏の演奏を生で聴くのはかれこれ10年ぶりくらいだ。
はたして彼は「音色の魔術師」とでもいうべき素晴らしい音楽家であった。
各音の遠近感、濃淡、硬軟、色彩が実に自在にコントロールされており、弱音の美しさは特筆ものであった。
中でもプレトニョフ編によるピアノ独奏版「くるみ割り人形」の「金平糖の精の踊り」。
原曲で使用されるチェレスタは、音色や強弱のコントロールが利かない。
ピアノで演奏するなら、いかにこの辺りのニュアンスを表現するかが問題となる。
辻井氏のそれは正に「魔法」としか形容しようのない妙技であった。
たかが通俗名曲などと馬鹿にするなかれ。
ホール全体が瞬く間に妖しく艶かしい空気(オーラ?光?)に包まれてしまったのだ。
私自身、アマチュアながら同曲は個人的に演奏したこともあるのだが、到底このような音の処理などできない。
厳しい鍛錬を積んできたであろうことはもちろん、圧倒的な才能を見せつけられた思いであった。
天才に脱帽!
ちなみに、彼のメカニカル面(速弾き等の指回り)については、必ずしも傑出しているわけではない。
彼より指の回るピアニストは幾らもいる。
実際、速いパッセージの処理が要求される曲では、メカニカルが彼の表現欲・情熱に追いつかず、不完全燃焼となる面も見受けられた。
とはいえ、彼が素晴らしいピアニストであることには変わりなく、どんな巨匠に変貌していくのか、今後がとても楽しみである。
やっぱたまには生演奏を聴かなきゃだなぁ。