弁護士の阿部士義信です。
先日4月7日の日曜日は、当法人恒例の休日相談の日。
私、事前に予約者のお名前を見て吃驚いたしました。
磯野並平
・・・・・・!!
あの国民的名ドラマのお父さん役の
磯野並平氏!!
とある一家の生活を隠し撮りしたドキュメンタリータッチのドラマという、斬新な構成で愛され50年のあの名番組「ササエさん」!
先ほど磯野氏との相談を終え、早速喜び勇んで本記事を書いております。
本来、守秘義務の関係上、相談者名や相談内容を口外することは禁止されています。
しかしながら、今回は磯野氏の許可を得て、特別に本ブログに詳細を掲載できることになりました。
磯野氏の漢気、天晴れ!!
(磯野氏曰く「どうせ息子はこのブログを見つけることはできないでしょう」、「それだけの知恵もない」とのことでした。)
磯野氏の相談内容は
「ワシの長男カズオが放蕩息子で困り果てています。」
「彼にはワシの遺産など当てにせず、自立した大人になってほしいのです。できることなら一銭たりとて相続してほしくない。」
「そのために、遺言書を作成しようと思っています。どんなことに気をつければ良いでしょうか?」
とのことでした。
これに対するご回答を結論から申し上げると
「現状、カズオさんは、最低でも遺産の1/12相当の取り分が見込まれ、これをゼロにする又は減らすには困難が伴う」
となります。
①どうしても取り分ゼロとしたいのなら
・相続人廃除の
⑴申立てをする
or
⑵遺言書を作成する
②可能な限り取り分を減らしたいのなら
⑴養子縁組をしまくる
and
⑵カズオ氏の取り分をゼロ又はかなり少なくする遺言書を作成する
ということになります。
ただ、これらの手段も万全ではなく、相応の副作用も伴います。
詳細は以下のとおりです。
①取り分ゼロ戦略の場合
並平さんが奥さんよりも先に亡くなったと仮定します。
現状、並平さんの推定相続人は、奥さんと3人の子どもの合計4人。
この場合、たとえ遺言書で「長男カズオの取り分ゼロ」としても
カズオさんには法律上最低でも1/12の取り分(遺留分)が認められてしまいます。
(※カズオさんには、法定相続分1/6の半分相当である1/12が、遺留分として認められる。)
これを奪うためには
・相続人の廃除(相続廃除)
をする必要があります。
遺留分放棄の許可については、カズオさんの協力が必要ですから、事実上不可能でしょう。
相続廃除も、結論から言えば難しいでしょう。
相続廃除とは
相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けたりしたとき、またはその他の著しい非行が相続人にあったときに、家庭裁判所への申立てにより相続人の地位を奪うこと
をいいます。
この相続廃除を実現するためには
・遺言書で廃除について書いておき、被相続人(並平さん)の死後、遺言執行者が家庭裁判所で手続を行う
ということになります。
実務上、相続廃除が認められるのは極めて稀です。
カズオさんの放蕩ぶりは相当なもののようですが、ご相談で伺っている限りでは、廃除が認められるほどではなさそうです。
また、廃除の手続きをとると、ほぼ間違いなく、並平さん亡き後に肉親間でのわだかまりが残るという問題もあります。
②取り分を減らす戦略の場合
カズオさんの遺留分を減らす方法として、並平さんが身近な方との間で養子縁組をすることが考えられます。
マツオさん、ラタちゃん、ノリツケさん、タエコさん、イラクちゃん等が候補として考えられそうですね。
上記5人全員が養子となれば、カズオさんの遺留分は1/32にまで減少します。
養子になった方にも相続人としての取り分が発生しますので。
もっとも
養子が不自然に多いと、「遺留分減少のみを目的とした縁組」として、養子縁組自体が無効とされるリスクが高まりますし、
相続発生後に、相続人間で協議が必要となった場合、当事者の人数が多い分、それだけ互いにモメる可能性も高まります。
各養子とて一枚岩ではありませんから。
(私はラタちゃんとイラクちゃんが相続を巡って骨肉の争いをする絵面なんて見たくない)
また、この場合も、親族間でのわだかまりが残るという問題がやはり出てきてしまうでしょう。
・・・といった内容をご説明しました。
並平さん、う〜んと少し考え込んで、ふぅっとため息をつくと
「またご相談に伺います」
と静かにおっしゃり、お帰りになりました。
心なしか、あの頼もしいお父さんの背中が、なんだか少し小さく見えました。
「もうお帰りになるんですか?」
「今日6時30分から本番があるでしょう。それより前に、余裕を持ってスタジオ入りする必要があるんですよ。」
・・・・・・
あの番組、生放送だったの?!
※この連載はフィクションです。実在の人物、団体及び事件等とは何ら関係がありません。