ダウンタウンのまっちゃんは「火垂るの墓」を観ると笑ってしまうらしい。
「火垂るの墓」といえば、戦中・戦後の混乱期を必死に生き抜こうとした、二人の兄妹の悲しい物語。
原作者である野坂昭如氏の実体験を元にして書かれており、主人公清太と節子のモデルも、野坂氏とその妹さんだ。
そんな野坂氏、あの「ガキの使い」にも出演したことがある。
この回、野坂氏がゲストで、表向きのテーマは「野坂昭如が人生を語る」というもの。
しかし、実際の企画の趣旨は
「トークゲストである野坂の体にタッチしたり、キスしたり、殴る等してポイントを稼ぎ、ダウンタウンの二人が獲得ポイントを競う」
というものだった。
真面目に語る野坂氏。
茶化して頭をど突く浜ちゃん。
怒った野坂氏、浜ちゃんの頭を殴り返す。
怒った浜ちゃん、さらに野坂氏を殴り返す。
またまた怒った野坂氏・・・
という具合にボカスカ殴り合う事態になってしまった。
(オンエアではほとんどカットされてるけど)
腹パンまで食らった野坂氏、思わず「うぅぅぅっ!」と唸ってたんだとか。
以来、まっちゃんは「火垂るの墓」を観ると、この時のことを思い出し、
「こんなにも悲しい、辛い目に遭っているお兄ちゃんが、何十年後かに浜田と殴り合うことになるのか」
などと想像し、思わず笑ってしまうようになったという。
私にとっては、「昭和元禄落語心中」が、ちょっとだけそんな感じの作品だ。
名人落語家・八代目有楽亭八雲と周囲の人々が織り成す人間模様・愛憎劇と、落語の世界とがオーバーラップした、ヒューマンドラマの大傑作である(と勝手に私は思っている)。
原作漫画、アニメ、ドラマといずれも捨て難いが、中でもアニメは特に素晴らしい。
与太郎役の関智一氏、二代目助六役の山寺宏一氏の演技力もさることながら、なんと言っても八雲師匠役、石田彰氏の凄さたるや!
苦悩と葛藤を抱えた落語家、八雲師匠の孤独、悲哀のなんとカッコ良く、何と色っぽく、そして何と泣かせることか!
涙なしには観られない!
この八雲師匠には実在のモデルがいる。
六代目三遊亭圓生である。
この方も、「昭和の名人」とされ、実に厳格で気難しく、多面的で複雑なお人柄。
妙に色気のあるお爺さんであり、八雲師匠のキャラとまんま一致する(モデルなんだから当たり前だけど)。
弟子が圓生の着物を畳もうとすると
「あんた、手ぇちょっと見せてごらん」
と呼びかけ
「あぶらっ手ですね」
なんと言って、畳ませなかった。というくらいには気難しい人だ。
圓生師匠について、そんなに詳しく知らなかったので、本作視聴をきっかけに色々と調べてみた。
圓生師匠は生前、2人のお弟子さんを破門にしていたらしい。
その内の一人が、現在も活動中の落語家、川柳川柳氏(元・三遊亭さん生)である。
破門の経緯は色々とあったようだが、この人、めちゃくちゃに酒癖が悪かった(今も悪い?)らしい。
酔ったいきおいで、他の一門の者とトラブルを起こしたり、師匠の酒を盗んだり……と、こんなのはまだ良い方で。
挙げ句の果てには、この人、圓生の自宅で留守番を命じられたものの、留守中に酔っ払ってしまい、
なんと、圓生宅の玄関先でウンコを漏らしてしまったのだ。
帰宅した圓生師匠と、これを迎える川柳氏。
「…… ( ゚д゚) !!」
「…… (゚д゚; ) !!」
「誰だ?玄関にうんこしたの (#^ω^) 」
「……犬じゃないですかねぇ?(゚ε゚;) 」
「ほぉ、そうかい。犬かい ( ^ω^) 」
「そ、そうですよ、犬ですよ (^ω^ ; ) 」
「そうか、犬なら仕方ないねぇ ( ^ω^) 」
「仕方ないですねぇ (^ω^ ; ) 」
「はははははは ( ^ω^) 」
「はははははは (^ω^ ; ) 」
「犬が紙を使うかぁ(# ゚Д゚)つ〃!!」
ウンコ付きの紙がびろ〜〜ん
……あぁ余計なことを知ってしまった。
どうしてくれるんだ。
もう八雲師匠のシリアスシーンを観ても
「この人、弟子にウンコされたんだよな」
「あの玄関だよな」
と雑念が湧いてきてしまう(ほんのちょっとだけね)。
美しくも哀しく、カッコいい、情と未練と業にまみれた八雲師匠の一生涯……そして、弟子のウンコにまみれた玄関先……。
「松田さん!?何だいこりゃあ!?」
「鼻が曲がりそうだよ!」
「すぐに片付けとくれ!」
「へい!」
なんてやりとりしたのかなぁ。
あぁ、返す返す、余計なことを知ってしまった。